人間と科学との対話
生命と目的論的構造
村上 陽一郎
1
1東京大学教養部
pp.726-730
発行日 1976年11月25日
Published Date 1976/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907043
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社会的文脈に規定される医療
前回の最後に,‘人間が他の人間に,自らの身体に対して自由にさまざまな接触を許すのは,夫婦や親子の間柄のような,極めて特異な連帯を除けば,医療の場面をおいて他にはない’と書いた.じっさい,このことは,皆,あまり不思議には思わないが,考えてみれば,ずいぶん特別なことだ.
親が子供を抱き上げたり,抱擁したりするのは当然だ.それでもある程度の年齢が過ぎると,子供は照れてそうした抱擁を厭(いや)がるようになり,その照れは自然に親のほうにも反映されるために,親子の身体的接触は急速に薄れてゆく.子供のころは,友達—異性であれ同性であれ—と手をつないだり,肩を組んだりしても平気だが,これも,一定の年齢に達すると,そうした接触が非常にうとましく感じられるようになる.
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