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出会い
木下先生との最初の出会いは,1999年に木下先生の最初のM-GTA本である『グラウンデッド・セオリー・アプローチ—質的実証研究の再生』が出版されたときに始まる。当時,精神科の臨床で作業療法士として働いていた私は,統合失調症の患者さん34名分のインタビューデータを抱えて途方に暮れていた。データを読めば読むほど,とても重要なことが,まるでダイアモンドの原石のように散在していることを感じるのだけれど,それをどう取り出して形にしていけばよいのかわからなかったのだ。人づてに「グラウンデッド・セオリー」というものがあることを知り,その開発者であるグレイザーとストラウスの『データ対話型理論の発見』を読んでも,実際の分析方法がさっぱりわからなかった。そんなとき木下先生の本に出会って初めて,これならできるのでは,と直感した。奥付に木下先生のメールアドレスがあったのを幸いにメールを差し上げ,スーパーバイズ(SV)を快諾していただき,3時間くらいSVを受けて3つくらい概念をつくった。そして,「もうあなた一人でできるでしょう,1か月以内に投稿しなさい」と言われ,本当に1か月で投稿した。その成果は,2001年「分裂病患者の薬に対する主体性獲得に関する研究—グラウンデッド・セオリーを用いた分析」,その続編の「統合失調症患者の薬に対する主体性獲得に関する研究第2報—グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて」は2003年に,『作業療法』誌にそれぞれ掲載された(佐川,2001;2003)。
分析作業が波に乗ったとき,「わかった!」と感じたとき,分析を楽しんでいる自分を発見した。そこから私は研究をもっとやりたいと感じ始めた。質的研究の分析技法やフィールドワークなど調査方法,社会学の道具を手に入れたくなった。かくして私は木下先生指導のもと,立教大学社会学部の修士課程で学ぶこととなった。そして修士を出て3年間臨床の現場に戻った後,再び博士課程に戻り研究の道をめざすこととなった。

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