特集 専門職の実践的力量を形成していくために
〈実践の中の知のプロセス〉に問いをひらく―ショーンの『省察的実践とは何か』を読み解く
柳沢 昌一
1
1福井大学教育地域科学部
pp.395-401
発行日 2008年5月25日
Published Date 2008/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100916
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概念図式からプロセスの理解へ
1980年代,アメリカにおける専門職の危機と向き合う実践と省察から生み出されたD. A.ショーンのThe Reflective Practitioner(邦訳『省察的実践とは何か』)注1)は,その後の専門職教育改革において広く共有されたヴィジョンとして位置づけられてきている。その影響は本書で直接取り上げられている建築・精神医学・エンジニア・都市計画・学校教育・企業のマネジメントといった領域ばかりでなく,看護教育やソーシャルワークをはじめ幅広い専門領域に及んでいる。実践の中での知の探究を軸に新しい専門職のあり方とその教育を展望するショーンの提起は,公的システムと生きられるプロセスとの軋轢の中で苦闘する専門職にとって,実践的であるとともにもっとも根本的な方向定位であり続けている。
しかし,そうした理論的な影響の広がりには,必然的に図式化と単純化がつきまとう。ショーンも例外ではない。「反省的実践者」という概念,「技術的合理性」対「行為内省察」の二項対立の図式のみが普及し,省察のプロセスに関わる精緻な跡づけと考察が看過されるならば,ショーンの提起はその意味を失っていかざるをえないだろう。The Reflective Practitioner全10章のうち(資料参考),大半を占める7つの章は多様な専門職の実践事例,そのストーリーをふまえたプロセス分析に充てられている。実践の展開,そこでの知のプロセスをショーンはどのように探り把握し分析しているのか,私たち自身が問い進めていくことが省察的実践という提起を理解する上で不可欠の仕事となる。
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