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はじめに
ATLAS.ti(アトラス・ティーアイ)は,質的データ分析支援用ソフトウェア(Qualitative Data Analysis Software:以下,QDA)の一種であり,Thomas Muhrがドイツで開発し,ATLAS.ti Scientific Software Development社が販売している(同社の日本語ウェブサイトは,http://www.atlasti.com/productintro_jp.html)。
ATLAS.tiのようなQDAは,欧米においては1980年代半ばから開発が始まり,すでに多くの学問領域で活用されているが,英語をはじめとするアルファベット言語を主な対象としていたため,日本を含むアジア圏での知名度は低かった1)。しかし,最近,ATLAS.tiのほかNVivo,MAXqdaといった欧米でメジャーなQDAが日本語環境下でも使用可能となり,各製品とも購入手続も日本語で可能となった注1。
筆者は博士論文の執筆過程で,その一部として行ったフォーカスグループインタビューのデータ分析にATLAS.tiを用いた経験から2, 3),QDAは質的データ分析を効率的に進めていく上で有用であると考えている。しかし,QDAは日本では活用され始めたばかりで,使用法に関する日本語の書籍も現時点では佐藤4)のもの以外には見当たらない。そのため,多岐にわたるQDAの機能をどのように取捨選択していけばよいのか迷うケースもあろうかと危惧している。
そこで本稿では,主要な質的研究手法の一種であり,看護学においても近年盛んに用いられているグラウンデッドセオリーアプローチ(以下,GTA)に焦点を当て,GTAによる質的データ分析を行うときに有効と考えられるATLAS.tiの機能を紹介したい。
GTAによる分析の具体的な手順は研究者によってバリエーションがあろうが,本稿では原則として戈木クレイグヒル滋子氏(首都大学東京教授)による書籍『質的研究方法ゼミナール』5)に準拠する。同書にて提示されているインタビューデータ「ナースQさんの語り」(pp.197─199)を例に,GTAによる分析をATLAS.tiを用いて進めるプロセスについての私案注2を説明しつつ,ATLAS.tiの機能を紹介していきたい。
本稿の構想は,戈木クレイグヒル氏主催のゼミに筆者が参加した折に得たものである。着想の機会のみならず書籍からの引用もご快諾くださった氏に心より感謝したい。
なお,本稿では,ATLAS.tiに特有の用語と『質的研究方法ゼミナール』で用いられているGTAに関する用語とが混在することになる。そのため,ATLAS.tiに関する用語は原則として英語表記(画面のメニューに表示されるまま)とする。
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