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後編の位置づけ
本稿のテーマは,質的研究のデータ分析用ソフトウェア(CAQDAS: Computer-Aided Qualitative Data Analysis Software)の有用性の検討である。前編(本誌第39巻3号)を読んで,「ついに質的研究にもコンピュータを使った分析が必須な時代になるのか」と憂えた研究者は少なくないと思う。実は筆者も,質的データ分析にコンピュータソフトウェアが対応してきていることに危惧を感じている1人である。以前にも主張したことであるが(安保,2006),簡単に扱えるツールができてしまうと,背景にある重要な考え方を学ばないままデータ分析をする研究者が出てくる可能性があると感じている。例えば,SPSSやPubMEDのようなツールを使った研究発表で,正規分布を理解しないまま分散分析を行なっていたり,検索ワードが不適切なだけにもかかわらず先行研究がないと断言したりする発表に出くわすことがある。コンピュータツールを使うことが研究の信頼性を示すこととは同義ではないのであるから,質的研究についても調査および分析方法や評価基準の統一的な原則を見いだし,広めていく必要があるだろう。
本稿で解説するATLAS.tiは質的研究データ分析ソフトウェアの1つであり,日本語で記述された質的データの管理・分析支援が可能であるという特徴がある。筆者(安保)は深堀氏から紹介されて実際に活用しはじめたところであるが,ATLAS.tiには検索や関連付けなどの手順を強力に補助する機能がみられ,便利な文房具であると感じた。本稿ではATLAS.tiを用いて既存のデータ分析過程を追試した感想を記すことで,質的データ分析のための「新しい文房具」の使いやすさを論じたいと思う。
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