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はじめに
看護教育における形態機能学は看護活動の基盤をなす重要な科目の1つであるが,医学の枠組みをモデルとしてきたため,生活援助や臨床看護の視点に乏しく,実際の臨床の場面での看護ケアの展開につながらないことが指摘されている。 この問題に対して,菱沼らは精力的に取り組み,1993年度より「解剖生理学」の医学モデルから看護学モデルへの変更を試み,さらに1995年度から従来の「解剖生理学」と「病理学」を統合して「形態機能学」と「形態機能学演習」を設定した1)。
1997年に施行された看護婦・看護士学校養成所指定規則の改正では,従来の解剖生理学,生化学,栄養学,薬理学,病理学および微生物学の内容を含むものとして「人体の構造と機能」および「疾病の成り立ちと回復の促進」に変更され,従来の枠組みにとらわれず,看護の視点より弾力的に授業を再編することが期待されている。
一方,近年,看護師をはじめとする医療従事者の養成機関においては,大学の新設あるいは短大から4年制大学の設置,大学院設置へと機構の変革が著しく行われ,これらの養成校では,ほとんどが医学部など他領域から赴任した非看護系教員が「人体の構造と機能」に関する領域を担当しているが,看護の枠組みの中で何を教えればよいのか戸惑いがみられる2)。
解剖学会では有志によって1993年より毎年懇話会が開催され,2000年には「看護学における解剖学教育の現状と問題点」を主題として議論がなされた。講師のひとりであった菱沼は日常生活行動を主軸に再構築した形態機能学の枠組みについて解説している3)。しかし,生活行動を主軸にする形態機能学の視点は肯定されながらも,皮相的な解剖生理学の知識で終わってしまうことが危惧される4)。形態機能学については,すでに確立した学問体系と膨大な知識の集積があるので,形態機能学を医療者のリテラシーと捉え,看護の視点にとらわれずに専門的な知識を教え,学生の中で統合してもらうほうが成熟した教育ができると考えることもできるのである。
このように看護学教育における形態機能学のあり方に関しては統一見解は得られていないが,看護形態機能学の充実が看護学の発展に寄与することを期待し,筆者らは看護学的視点による形態機能学教育の再構築を検討している。その第一段階として,形態機能学が,臨床の場面での看護の展開につながっていかない要因と,形態機能学の看護学教育での役割を明らかにすることを目的に,臨床および大学の多様性のあるメンバーからなる討議会を重ね報告した5)。
今回は,臨地実習の経験のある学生を対象にフォーカスグループインタビューを行い,形態機能学が臨床場面での看護の展開につながっていかない要因や学生のニードを探ることを目的とした。先行研究5)がいわば「提供側」に焦点をあてた研究であったのに対し,今回は「受け手側」に焦点をあて,看護教育の中での形態機能学の方向性を検討する。
なお,本研究においては,「形態機能学」は「人体の構造と機能」を意味し,従来の「解剖生理」と同意語として用い,看護に特化した内容を示すときは「看護形態機能学」という名称を用いた。
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