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はじめに
私は1968年に医科大学を卒業した。小児科か心身医学か精神医学を専攻したいと思っていた。また,学生時代から科学論,研究方法論に興味があり,エンゲルスの『自然の弁証法』,クロード・ベルナールの『実験医学序説』,セリエの『夢から発見へ』,沢潟久敬氏の『医学概論』など,興味のおもむくままに読んでいた。われわれの世代はインターン制度から研修医制度への移行期で,医学界は混乱していた。その頃出会った先輩から,梅棹忠夫氏の『知的生産の技術』を紹介され,一読して大いに啓発された。この本は私のメンタリティによく馴染み,再三熟読した。さっそく京大版B6カードを手に入れ,後に自分用のものを特注するまでになった。白衣のポケットを改造するほどの熱の入れようだった。
同じ先輩から,今度は川喜田二郎氏の『発想法』を紹介され,すっかりとりこになってしまった。これがKJ法とのそもそもの出合いである。それが昂じて川喜田氏の主催する「移動大学」や「KJ法研修会」に参加するようになった。それと並行して,川喜田二郎氏の書いたものを手当たり次第読んでいった。そして世にも凄い人がいると思った。
川喜田氏には『パーティ学』1)という著書がある。そのなかに,創造の3原則というものがある。それは,1)切実感がある,2)自発的である,3)モデルがないこと,である。当時私は駆け出しの臨床医で,精神療法の分野で新基軸を打ち立てたいと,やる気十分であった。つまり,上記3条件を満たす場にいたわけである。その後かれこれ35年間,KJ法2)に関わりながら臨床活動と研究活動を続けている。
2003年,私はこれまで発表してきたKJ法関係の論文をまとめて一冊の本にした。題して『精神保健とKJ法』3)である。本稿は,その中身を紹介するかたちで責めを果たしたい。
本書は全体で14本の論文からなっている。以下,順を追って記述していく。
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