特集 病名を告げえない状況のなかで
癌を告げる,告げないを超えて
佐伯 幸子
1
1国立千葉病院
pp.1264-1269
発行日 1979年12月1日
Published Date 1979/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918833
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はじめに
癌を告げるべきか否か,を論ずる時,きまってたとえられる話がある.ある高僧が癌に倒れ,‘自分は悟りの道にあるもの,どんなことを言われても決して動じたりはしない.だから真実を告げてほしい’と言われ,医師は安心して真実を告げてしまったが,僧侶はその後,急速に容態が悪化して死亡した,というものである.
この話に象徴されるように,日常,形式的なかかわりをもつ以外,宗教とは無縁に近い生活をしている大多数の人々の認識は,‘癌=死’であり,目覚ましく医学が進歩した今日でも,それは変わらないものである.‘癌と宣告すべからず’かつ‘癌という言葉を患者の前で口にしてはならない’という自己規制のもとに,長年癌患者の看護に携わった私自身の足跡を振り返りながら,感ずるままを述べてみたい.
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