特別論稿
癌末期患者への病名告知,告げる側の条件について考える
郷地 秀夫
1
,
浜本 肥世
2
1東神戸病院内科
2東神戸病院2階病棟
pp.669-672
発行日 1983年6月1日
Published Date 1983/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922977
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はじめに
現在,日本では癌患者への病名告知は多くの場合行われていない.診断がついた時点で告知すべきかどうかが一応検討されるが,ほとんどの患者は真実を知らされないまま末期状態を迎える.体力が衰え,苦痛や不安が増す中で,患者は動揺し,怒りっぽくなったり,粗暴な言動を取りがちである.そのような時点で再び,病名を告知すべきかどうか検討されることがある.しかし,早期の告知とは違った意味で,癌末期患者への病名告知の是非に関する論議も,さらに混沌としたままである.
多数を占める告知否定派は‘告げれば,患者が精神的ショックを受け,その後病状が悪化し,死期を早める危険がある’という主な理由から,‘告知すべきでない’と主張する.しかし一方では,告知によって患者が人生の最後を有意義に過ごせたという報告を論拠にした,告知肯定派の主張がある.‘病名をふせることが患者の現状認識を妨げ,現在の癌末期ケアの大きな障害となっている’とするものである.一見,相反するように思えるこの主張は,見方によれば同一の立場に立ったものである.それは病名を告知すれば,その瞬間から運命は患者自身に委ねられるのだということを前提とした考え方である.違うのは告知後の結果が吉とでるか凶とでるか,患者に与える影響の予想の違いにすぎない.癌末期ケアは,第三者として患者のことを予想していくことより,私たちが患者にどうかかわれるのかという問いかけの中で深められていくべきものだろう.
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