巻頭言
コロナ禍での性善説
三上 靖夫
1
1京都府立医科大学大学院 リハビリテーション医学
pp.527
発行日 2021年6月10日
Published Date 2021/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202235
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最近,性善説についてのコラム記事を新聞やwebサイトで見かけることがありました.安部前総理が昨年5月に持続化給付金の申請について,「性善説に立って対応していく.」と述べました.不正な申請などないとの前提で事業が進められていますが,実際には不正受給が相次いで発覚しました.コロナ禍で叫ばれる自粛に関するお願いは,すべて性善説が前提になっていると思われます.おそらく国民全員が自粛を守れば,感染拡大は収束に向かうでしょう.しかし,感染拡大がおさまらない原因の一つは性善説が万人には当てはまらないことを示しているのかもしれません.
昨年,無観客ながら選手と関係者だけで1,000人が集まるスポーツ大会の感染対策を任されました.感染が疑われる人を入場させないことが重要であり,会場に入場するすべての人に,手指衛生の実施や大会前に密となる場所へ行かないなどの事項への同意書と,大会2週間前からの健康記録表の提出を義務付けました.1,000人もいれば,過去2週間に何らかの症状があったとする人がいると予測しましたが,実際には上気道の症状や腹部症状,嗅覚異常などにチェックをした人は1名もいませんでした.同意書の中の「なんらかの症状があった場合は入場できない.」とした一文が効いたのでしょうか.性善説に立てば,「全員が感染対策を十分に講じて体調を管理した結果,誰一人症状を来さなかった.」ということかもしれません.しかし,本当に,1,000名全員が過去2週間に誰一人,まったく何の症状もなかったのでしょうか.
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