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はじめに
リハビリテーション医療を取り巻く環境は,近年大きく変化している.少子高齢化という社会構造の変化や医療提供体制の機能分化・高度化,さらに職域の多様化などにより,理学療法・作業療法・言語聴覚学生が卒業時に身につけているスキルと臨床現場で新人に求められるスキルとの間のギャップが指摘されている.一方で,理学療法士や作業療法士,言語聴覚士は診療収益の構造として,個別診療における出来高制であるため新人に対しても,経営的にある程度の単位数が求められる.
また,新人教育という観点でも,年齢構成上若い職員が多い職場が多く,新人療法士に対する卒後教育の充実度は施設間で大きく異なっていることが指摘されている.芳野ら1)の報告によれば,理学療法士の卒後教育の現状に関して,現場指導者は,新人が独力で業務を行うためには3年程度の臨床経験が必要と感じているという結果であったが,実際に指導されている平均期間は9.4か月であったと報告している.また,明確な指導基準がなく,指導者単位での経験的指導が行われているとも報告している.さらに,理学療法士・作業療法士の卒後教育の現状について,2017年の厚生労働省資料によれば,「新人対象の教育プログラムがある」と回答した割合は,理学療法士65.8%,作業療法士65.5%であり,「On the Job training(OJT)等の教育がある」とした割合は,理学療法士・作業療法士ともに約20%であった2).このように臨床現場においては,「新人教育は重要だが新人療法士の育成にかかわる時間を十分に確保することができない」という教育環境の理想と現実の乖離が生じており,さらに卒前教育と卒後教育においてのシームレスな連携が十分図られていないという課題が存在している.
さらに,2020年からの新型コロナウイルス感染症の脅威は,臨床現場での教育という観点でも大きな影響を及ぼしている.特に,理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の臨床技術には,現場でしか習得できない経験学習的な側面があるために,臨床実習に行く機会を失った学生たちの人材育成については,卒前教育の課題から卒後教育の課題へと移行してきており,この課題解決は今後臨床現場での人材育成に委ねられる.
広島大学病院(以下,当院)では,2011年に「チーム医療推進のための大学病院職員の人材養成システムの確立」というテーマで文部科学省より医療人材養成プログラム開発の予算を得て,教育体制の整備と実践を図ってきた.事業終了後も,「レジデント制度」として外部より研修生を受け入れて人材育成を行っている.本稿では,現在の医学教育の方向性に触れつつ,当院で実践している新人教育に関する方針とレジデント制度の取り組みに関して紹介する.また,実践を通して発見した課題と今後の展望に関する私見を述べる.
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