Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
大江健三郎の『芽むしり仔撃ち』—感染症文学としての側面
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.206
発行日 2021年2月10日
Published Date 2021/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202163
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昭和33年に大江健三郎が発表した初期の代表作『芽むしり仔撃ち』(新潮社)は,戦争末期,感化院の少年たちが山奥の村に集団疎開するものの,疎開先の村には疫病が流行していたという話である.少年たちが村で最初に与えられた仕事も大量の動物の死骸を埋める作業だったが,この村では既に朝鮮集落の男性が一人亡くなっていたほか,疎開女も一人死にかけていたのである.
それを聞いた主人公の僕が,「疫病なら避病舎へ入れないとだめだろ?」,「はやりはじめたら凄いぞ,みな殺しになるぞ」と問いかけると,村人は「避病舎はない」と不機嫌に言いながら,「村に疫病がはやる時,あんたたちはどうするんだ」という問いには,次のように答えた.「村ぐるみ逃げ出す,病人を置いて避難する.それが定まりだ.俺たちの村に疫病がはやる時,まわりの村は俺たちを養ってくれる.逆によその村で疫病がはやったら,俺たちの村へ逃げこんで来る奴に食わせてやるんだ」.
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