Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
大江健三郎の『走れ,走りつづけよ』—精神障害の祖父
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.166
発行日 2015年2月10日
Published Date 2015/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200147
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昭和42年に大江健三郎が発表した『走れ,走りつづけよ』(『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』所収,新潮社)には,精神障害者とされる祖父に対する主人公と従兄の対称的な態度が描かれている.
この主人公には,優秀で親戚中でも評判の高い従兄がいたが,二人は,「共通の血縁として,すなわち僕にとっては母方の祖父,かれにとっては父につながる祖父であるところの,ひとりの狂人を持っていた」.この祖父は,「30代にはもう発狂しながら,なお50年の狂気の時を生き延び」て,85歳の誕生日にダイナマイトで爆裂死を遂げたという人物である.祖父は,誕生日の直前に50年ぶりで正気に戻ったものの,正常の人生を再開するには遅すぎたことを悟り,彼自身と彼にかかわるものすべてを壊滅せしめるべくダイナマイトに点火したと噂されていた.
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