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はじめに
認知症を含め多くの疾患において,早期診断ならびに早期介入はその疾患の予防,治療において最重要課題の1つであるに違いない.認知症の『早期診断』であるが,『早期診断』の時期は以下の3つに分類される「無症候期(第Ⅰ期)」,「軽度の症候を認めるが疾患に至っていない状態(第Ⅱ期)」,「疾患発症後(第Ⅲ期)」.第Ⅰ期は,記銘力障害などの認知機能低下や,うつ,易怒性と言った精神症状をまったく認めない,健常人として認識される時期である.したがっていかなる神経心理検査,家族からの情報聴取などにおいても異常のない時期となり,「バイオマーカー」においてのみ異常が確認される時期である.ここでのバイオマーカーには脳脊髄液等の「体液バイオマーカー」と,放射線学的検査を中心とした「画像」の2種類が含まれる.第Ⅱ期は,記銘力の低下など,非常に軽度の認知機能の低下を認めるが,日常生活や社会生活に支障の及んでいないいわゆる軽度認知機能障害(mild cognitive impairment;MCI)の状態を指す.第Ⅲ期は,認知機能の軽度低下や精神症状ならびに行動異常(behavioral psychological symptoms of dementia;BPSD)が生じ,日常生活に支障が出始めている状況を指す.実際はこの時期に家族が状態の変化に気付き,病院やクリニックを受診することが多い.
認知症の早期診断は,疾患によって異なる.変性疾患,特にアルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)において,昨今早期診断の研究が進んでいる.血管性認知症に関しては,脳梗塞,脳出血といった明らかな脳血管障害に起因する血管性認知症の場合は,脳血管障害の発症の瞬間が診断のタイムポイントになりうる.すなわち脳梗塞,脳出血による血管性認知症の発症前診断ははなはだ困難と言わざるを得ない.同じ血管性認知症においてもBinswanger病のように大脳白質が長期に渡って変性を来す疾患においては,現在用いられている精度の高い核磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging;MRI)を用いれば,大脳白質の変性を詳細に解析することにより発症前診断が可能になるであろう.
認知症の臨床診断において最も重要なことは,患者の生活環境,日常生活動作(activities of daily living;ADL),認知機能,精神症状,行動異常などを全人的かつ総合的に評価することである.単に長谷川式認知症診断スケールの点数や,コンピュータ断層撮影(computed tomography;CT)やMRIといった放射線技術を用いた脳画像のみにより診断するのではなく,上記の情報を本人のみならず家族や介護者から十分に聴取したうえで,診察および検査を進めて最終診断を下すことが肝要だと考えられる.
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