Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
井伏鱒二の『山椒魚』―障害受容文学の系譜
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.578
発行日 2001年6月10日
Published Date 2001/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109519
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昭和4年に井伏鱒二が発表した『山椒魚』は,岩屋の中に閉じ込められた山椒魚を主人公にした物語であるが,この作品は一種の障害受容文学としても読むことができる.
この作品は,「山椒魚は悲しんだ」という一文で始まる.知らぬ間に体が大きくなって岩屋から出られなくなった山椒魚は,「何たる失策であることか」と狼狽するのである.それでも彼は,自分に言い聞かせるかのように,「いよいよ出られないというならば,俺にも相当な考えがあるんだ」と強がってみせるが,彼にうまい考えなどあるはずもなかった.山椒魚は当初,岩屋の外を眺め,群れで泳ぎ回る小魚たちを「なんという不自由千万な奴らであろう」と嘲笑したり,岩屋の中にまぎれこんできた海老を見ては「くったくしたり物思いに耽ったりするやつは,莫迦だよ」と言ったりしたが,それらは皆,彼自身の似姿に他ならなかった.
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