Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
福永武彦の『草の花』―障害受容文学の系譜
高橋 正雄
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1筑波大学大学院人間総合科学研究科
pp.1112
発行日 2011年11月10日
Published Date 2011/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552102281
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福永武彦が1954年に発表した『草の花』(新潮社)は,結核のために都内のサナトリウムに入院し,30歳で亡くなった汐見という青年が,自らの人生を回顧した手記を中心とする作品である.その手記のなかで,汐見はそれまでの人生をこのような形で書くことになった事情を,次のように説明している.
最初,医師から死期の近いことを告げられた汐見は,「これは夢だ,覚めてしまえば,何だつまらない夢を見た,と言い切ってしまえるような,そんな一時的なものだ」と思おうとした.しかし,やがて汐見は,「現に在るが如くに在る以外にはもう決して在り得ない現実が,僕に与えられた唯一の人生であること」を思い知り,次のように考えたと言う.「僕は過去をもう一度やり直すことも出来ないし,未来をこれから試みることもできない.僕は現在も未来もない人間で,ただ過去を持っているばかりだ.そんな僕が,一体どうしたならば,真に生きることが出来るだろうか.」
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