Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
菊池寛の『俊寛』―障害受容文学の先駆
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.768
発行日 2001年8月10日
Published Date 2001/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109563
- 有料閲覧
- 文献概要
前回の本欄では,芥川龍之介の『俊寛』を障害受容の心理という観点から論じたが,同じ大正10年に発表された菊池寛の『俊寛』にも,島流しにあった俊寛の障害受容的な心理が描かれている.
菊池寛の『俊寛』では,一人島に取り残された俊寛が,最初,悲しみと憤りと恥に苛まれて自殺しようとまで思いつめる.しかし,絶望の果ての昏倒から覚めて泉の水を飲んだ俊寛は,その水が,都の山荘で飲んだいかなる美酒にもまさることに気づく.そして彼は,「その清洌な水を味わっている間は,清盛に対するうらみも,島に,ただ一人残された悲しみも,忘れ果てたように清々しい気持ちだった」という.実際,泉の水を飲み,椰子の実を食べて飢えと渇きから解放された彼は,「生まれて以来,これほどのありがたさと,これほどのうまさとで,飲食したことはなかった」と思い,「自分の今までの生活が夢のように淡く薄れて行くのを感じた」のである.
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.