Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
井伏鱒二の『屋根の上のサワン』―癒すことと癒されること
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.666
発行日 2002年7月10日
Published Date 2002/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109813
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昭和4年に発表された井伏鱒二の『屋根の上のサワン』(新潮社)は,孤独な主人公と一羽の鳥との心の交流を描いた作品である.
ある日,「ことばに言いあらわせないほどくったくした気持で沼地のほとりを散歩していた」主人公は,鉄砲で撃たれたがんが,血を流して苦しんでいるのを見つけた.だが,主人公が両手で拾い上げてみると,「この一羽の渡り鳥の羽毛やからだの暖かみはわたしの両手に伝わり,この鳥の意外に重たい目方は,そのときのわたしの思い屈した心を慰めてくれ」たという.主人公は,「どうしてもこの鳥をじょうぶにしてやろう」と決心して,両手にかかえて家に帰った.
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