Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ヘミングウェイの『老人と海』―祖父孫文学の系譜
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.966
発行日 2001年10月10日
Published Date 2001/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109607
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1952年,ヘミングウェイが53歳の時に発表した『老人と海』(福田恆存訳,新潮文庫)は,サンチャゴという老漁夫が巨大な魚と格闘して釣り上げるまでの過程を中心に描いた20世紀の古典と呼びうる作品であるが,そこには祖父孫関係にも似た老人と少年の関係が描かれている.
この老人は,妻と死別して以来,メキシコ湾流に小舟を浮かべて魚をとりながら一人暮らしをしていた.だが,この84日間,老人には一匹も釣れない日が続いたため,最初は彼と一緒に漁に出ていた少年も,両親の言いつけに従って,別の船に乗り込むようになっていた.もっとも,老人のことが心配だった少年は,港まで老人を迎えに行き,老人が巻網や魚鉤を片づける手伝いをしていた.少年は,「また一緒に行きたいなあ」,「なにか役にたちたいんだ」と,老人に話しかけるが,老人も「もしお前がおれの子だったら,もう一度っれてって,一か八か,やってみるんだが」と,残念がった.また少年は,碌に食べるものもない老人のために,夕食を誂えて来て一緒に食べたり,「世界一の漁師はお爺さんだね」,「うまい漁師はたくさんいるよ.えらい漁師だっていくらかいるよ,でも,お爺さんだけは特別だ」,「お爺さんは昔のように強いんだもの」と言ったため,老人は,「お前はおれをうれしがらせてくれる」と喜ぶのだった.
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