Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
井伏鱒二の『御神火』―他者を意識することの意味
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.766
発行日 2002年8月10日
Published Date 2002/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109837
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井伏鱒二の『御神火』(昭和18年)は,昭和15年7月12日夜に始まった三宅島の噴火に取材した作品であるが,この作品には,新聞の記事が島民を勇気づけるという場面がある.この年三宅島は67年ぶりの大噴火をしたため,島民は命からがら避難したり,罹災者の捜索にあたるなど懸命の努力をするのだが,そんな島民を励ましたのが,噴火の翌朝届いた新聞である.
7月13日の午前7時30分,一機の飛行機が低空で飛んできて,役場の真上に舞い戻ったかと思うと,黒い包みを落として行った.それは今朝出たばかりの新聞だった.その包みを押しいただいて持ってきた村長代理は,「この包みの上書きに,見舞の言葉が書いてあります.有難いことに東京の新聞社から今日の朝刊を送っていただきました」と言いながら,包みを開けた.そして新聞紙を拡げて,「みなさん,東京方面の新聞では,この島の噴火が社会面のトップ・ニュースになっております.つまり世間もこの島に注目しているわけであります.故に,われわれは共同一致この災害を克服し,世間の人に笑われないようにするばかりでなく,すべての災害に対する処置の模範を示そうではありませんか」と呼びかけたのである.
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