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はじめに
脳卒中片麻痺歩行の歩行時間因子と臨床的評価尺度の関連性について検討を行った報告は散見する.Brandstaterら1)は,片麻痺患者の運動麻痺の回復程度ともっとも関連性が高い歩行時間因子として,歩行スピード,健脚と患脚の遊脚期比率の2つの指標を挙げている.Bohannonら2)は,片麻痺患者の歩行能力の予測を逐次重回帰分析の手法を用いて検討しているなかで,運動制御とバランスに関する説明因子がもっとも予測に寄与していると述べている.さらに,Bohannonら3)は,脳卒中患者の麻痺側膝関節の伸展筋のトルクと痙性の程度のいずれが,歩行スピードと関連性が強いかを検討しているなかで,前者が後者よりもはるかに相関が高いことに基づき,前者が臨床的評価尺度として有用であると述べている.鈴木ら4)は,発症後6か月以内の男性脳卒中患者54例を対象とし,訓練開始8週後の最大歩行速度を目的変数,両側足圧中心移動距離,前後および左右方向への随意的重心移動距離,患側および非患側の等運動性膝伸展筋力を説明変数とする遂次重回帰分析を用いて検討を行った成績を報告している.その結果,訓練開始時歩行速度により分けた3群とも,患側膝伸展筋力のみが共通の決定因となったと述べている.Olneyら5)は,32例の片麻痺患者を対象に最大歩行速度を目的変数とし,歩行時間因子,運動学的,運動力学的変数を説明変数とする多変量解析を行った成績を報告している.その結果の臨床応用として,患側の足関節,股関節のパワーを増加させ,立脚期を減少させるように,そして健側の股関節屈曲モーメントと足関節モーメントを増加させるように治療プログラムの方向づけがなされることが必要であると述べている.
これらの報告にみられるように,どのような説明変数を選択するかは,研究者によって当然異なるものであるが,説明変数を治療側によって制御可能な変数と不可能な変数とに大別した場合,前者の寄与率の程度により,歩行スピードを増加させるには,どのような治療を指向したら良いかという臨床応用に結び付けることができる.Olneyらの成績は,重回帰分析の結果の臨床応用といえる.
窪田7)は,脳卒中患者の歩行スピードに影響を与える要因を検討しているなかで,患脚の運動機能の障害,知覚機能の障害が歩行パターンの異常を介して,患脚の支持性の低下,離床性の低下をもたらし,このことが歩行周期の延長,歩調の減少,健側ステップ長の短縮などに基づき,歩行スピードの低下が起こるのではないかというモデルを提示している.本研究ではこれらのモデルの妥当性を検証することを出発点とし,脳卒中患者を対象に,歩行スピードを含めた歩行時間・距離因子に影響を与える可能性のある個体要因の寄与を重回帰分析の手法を用いて検討を行い,その結果の臨床応用について,得られた知見を報告する.
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