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はじめに
脳卒中片麻痺患者における短下肢装具(Ankle Foot Orthosis;AFO)の使用目的は1),異常歩行パターンの補正を通じ,患脚への体重移行,体重の支持,患脚の離床を補助することにより,歩行能力を向上させることである.ここでいう歩行能力2,3)とは,基礎的能力として支持性,離床性,安定性など,応用能力として速度性,持久性,障害性(階段,スロープ,凸凹道),自立性など,総合的能力として,実用性などに関する能力を意味している.
上述したAFOの使用目的は,さまざまな歩行訓練の手法4),歩行杖5)の使用,足部機能再建術6)などと共通性があり,これらの手法は,それぞれの適応の決定を通じて選択・組み合わせが行われる.
ところで,AFOの適応決定にはどのような患者情報が用いられているのであろうか.この患者情報7,8)は,情報源に着目してみると,問診情報,診察情報,検査情報に分けられる.
片麻痺患者のAFOの適応決定が行われる最初の時期,すなわち,発症後間もなく歩行訓練を開始する時期(以下,早期の歩行訓練と言う)では,歩行の不自由さに関する問診情報はなお不十分であり,歩行パターンの視察所見も十分収集できないことが多い.
しかし,検査情報として頭部CT検査より得られる病巣の局在と範囲に関する情報によって,下肢運動機能の回復レベルの推定が可能となっている.例えば,中大脳動脈領域の比較的大きな梗塞であれば,運動機能の回復は共同運動レベル以下にとどまると考えられる.一方,外側型出血や,内包基底核領域の小梗塞,前頭葉か後頭葉に限局した病巣などの場合は共同運動より分離したレベルまで回復すると予測する.
また,診察所見のみでも発症後1か月位で共同運動レベルか,共同運動より分離したレベルかの推定がほぼ可能であり,AFOの適応決定についての示唆が得られる.一方,2~3か月を経過した時点(以下,回復期の歩行訓練と言う)では,患者情報は質・量において豊富になり,中核となる患者情報は,歩行パターンに関する視察所見となる.しかし,この所見は精神・心理的要因,環境的要因によって影響を受けるため,感度は高いものの再現性が必ずしも良好でなく,このことを補うために,再現性が比較的良い運動機能障害の所見を加えることが有効であると考える.
このように,AFOの適応決定には,発症からの経過のなかで収集し得る患者情報にもとづき,総合的な判断が行われていると考えられる.
本研究の目的は回復期の歩行訓練の過程で,AFOの適応決定に関して,当センターの医師,理学療法士がほぼ共通に用いている患者情報を整理し,統計的解析により適応決定の推論過程の分析を行うとともに,これらの情報がAFOの適応決定にどの程度有効に関与しているかを検証し,妥当性のある適応決定の基準作成に向けて検討を行うことである.
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