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調査研究における要因分析上の偏り:交絡と交互作用
臨床検査の測定意義を評価する場合,測定値がどのような要因で変動するかを調べる必要がある.変動要因が年齢,性別,体型,飲酒,喫煙などの個人の身体・生活習慣特性である場合,一群の健常者について注目する特性値と当該検査値とをセットで集め,どれがその検査値の変動に関係しているかを調べる(生理的変動要因の解析).また,変動要因がある病態の程度を表す計測値,例えば血圧,肥満度,HbA1c(糖尿病),クレアチニン(腎機能),中性脂肪(高脂血症)との関係をみる場合,目的とする病態を持った一群の患者を集め,患者の特性値(年齢,性別などの個体特性と病態検査値)と当該検査値をセットで記録し,どの要因(特性値)がその検査値の変動に関係しているかを調べる(病態変動要因の解析).これらの解析は,研究デザイン的には,横断的な調査研究に相当する.調査研究では,常に変動要因間に明瞭な相互関連があることが多く,目的とする検査値と個々の特性値との関係を個別に比較しても無意味である.これは,個別分析では特性値の相互関連を考慮できないためで,分析上の偏りが生じ,無意味な結論を導く可能性が高くなる.その偏りは,統計学的には,大きく交絡と交互作用に分類される.以下に2つの偏りの典型的なパターンを例示する.
図1は免疫グロブリンG(IgG)の値が喫煙や性別でどう変わるかを調べた調査研究である(データは表1を参照).図左からは喫煙群ではIgGは明瞭に低く,かつ図右から男性は女性に比し値が低いことが示されている.しかし,喫煙者には男性が多く,図1では性差に左右され,IgGと喫煙との直接的な関連性を読めない.それを明確にするにはデータの層別化が必要である.図2は男女別に喫煙とIgGの関係をみたものだが,男性だけでみても(左の2つの分布図),また,女性だけでみても(右の2つの分布図),喫煙者ではIgGが低値であることがわかる.これに対して,喫煙者だけ(1,3列目の分布図),または非喫煙者だけ(2,4列目の分布図)に限って男女のIgG値を比較すると,いずれも差がないことがわかる.このことから,喫煙はIgGの低下と関連した要因と考えられるが,図1右で認めた性差は見かけ上のもので,男女で喫煙率が違っていたためと判断される.このような現象を交絡(confounding)と呼び,“IgGの男女差の分析において,喫煙習慣が交絡していた”と表現する.また,こうした偏りを生む裏の因子(この場合,喫煙習慣の有無)を交絡因子と呼んでいる.
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