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はじめに
失語症の言語治療の分野でも疾患や障害にかかわりなく,患者が日常生活を営んで行く能力についての評価や訓練への関心が高まっている1).人口の高齢化を反映した失語症の病像の変化は,リハビリテーションの目標としてのQOLの追究,治療効果に関する社会的妥当性の要請などと相俟って従来とは異なる視点に立つ評価法,訓練法を生み出しつつある.そうした変化の1つが訓練法の多様化2,3)である.言語機能障害に対する訓練法が認知心理学的モデルを取り入れ精緻化する3)一方,能力障害に対する訓練は社会的不利レベルに対するアプローチを組み込む方向へと広がりを見せている.さらに欧米では費用―効果の観点から,訓練が日常生活能力の改善に及ぼす効果を問い直す機運が高まっており4),こうした傾向を反映して訓練効果の測定法にも変化5,6)が見られ始めている.すなわち,訓練前後の総合評価により変化を見る従来の方法では,失語症,高次脳機能障害患者など個人差の大きい対象患者を扱う場合は訓練効果に影響する変数を明確にすることが難かしい.そこで被験者自身が自らのコントロールとなり,独立変数すなわち「特定の訓練」が,従属変数すなわち「失語による行動上の問題(例えば呼称障害)」に及ぼす効果を計測する被験者内の実験というべき単一被験者実験デザイン5-7)が積極的に利用されはじめている.この方法では訓練の中で操作される変数が特定されるので,どのような訓練が,どのような状況で,どのような患者に有効なのかを個別に明らかにすることができるからである註1).
一方,病院での基本的な言語訓練を終了し,地域に居住する失語症者や特養に在籍する患者など慢性期の失語症者を対象としたリハビリテーションの必要性が高まっており9),こうしたニーズに対応するためには,病院に入院中の急性期の患者に対する場合とは異なる視点での訓練の検討が必要となる.
本稿ではこれらの動向に留意しつつ,慢性期における実用コミュニケーション能力改善のための訓練について紹介したい.
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