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はじめに
最近に至るまでの失語症検査法は,失語症患者の持つ言語機能の障害を分析し,失語症のタイプ分類を行うことを主目的としていた.このような検査は,失語症患者の機能障害を理解する上でも,また言語訓練計画の立案および訓練効果の判定に必要な基礎的データを得る上でも不可欠なものであることは言うまでもない.しかしながら,この種の検査は,患者にとって可能なコミュニケーション手段がどのようなものであるのか,また患者が,自らの意思を伝えるためにどのような方法を試みるのかなど患者のコミュニケーションの実態についての情報をとらえるようには作成されていない.したがって,このような検査で得られた結果を実生活でのコミュニケーション場面に当てはめて解釈することは必ずしも容易ではない(たとえば,この患者は家に帰った時,主婦としての責任を果せるか,など),さらに,失語症に対する言語治療の効果についてのこれまでの研究は,治療の前後における失語症検査の成績の差を根拠としているものがほとんどであり3,7,8),実用的なコミュニケーション能力の変化を,段階評価15)以外の方法を用いて直接検討したものはなかった.
失語症の言語治療が,統語論,意味論を中心とした言語学的アプローチ,刺激―反応系の厳密なコントロールを重視する行動学的アプローチなど言語機能を重視した方向へと進む一方,失語症のリハビリテーションの本来の目的はコミュニケーションの回復にあるとして,これらの方向に対する反省あるいは批判の動きも最近活発になってきた9,10,18,19).Holland10)は,言語学的な適切さに重点を置いた治療法や,刺激―反応という枠組の中での限られた言語反応しか認めない治療法は,患者の持っているコミュニケーション能力(非言語的なものも含めた)を十分に引き出し得ないことを指摘し,失語症に対する言語治療の基盤を,propositional adequacy(言語学的な形式に適合した反応を引き出すこと)からcommunication adequacy(形式はともかく自分の意図することを適切に伝えられること)に変えるべきであると主張している.その1例として彼女は,失文法を呈するプローカ失語患者に対して,助詞を入れて正確な文章で話させる訓練を行うことが垂要か,それとも構音をより明瞭にし,効率的に単語レベルでの発話が引き出せるような訓練を行うのが重要か,実生活のレベルで考えてみることを提案している.つまり,患者の障害(impairment)に泣目してそれを改善させようとする従来の臨床態度から,患者に残された言語・非言語的コミュニケーション能力を知り,実際のやりとりの中でそれらをどのように工夫して用いるかを観察し,訓練の中でそれらを発展させる態度への転換の必要性を説いたのである.コミュニケーションに焦点をあてた治療法の開発は,失語症の言語治療法の新しい流れの1つとなりつつある4).このような動きを背景に,実生活における実用的コミュニケーション能力を直接測定する検査法の開発が検討されるようになったのである11).
本稿では,失語症患者の実用的コミュニケーション能力の評価法を,コミュニケ一ションADL検査(CADL検査)を中心にまとめてみたい.
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