巻頭言
脳性麻痺の超早期発見
瀬本 喜啓
1
1大阪医科大学リハビリテーションセンター
pp.3
発行日 1991年1月10日
Published Date 1991/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552106699
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脳性麻痺の超早期発見のための技術は果たして進歩しているであろうか.古くはAndreThomasの神経学的検査法から始まり,また近年はBobathとVojtaの方法が有名であるが,いずれの方法も主観に大きく左右される検査法で,“名医”でなければ正確な診断は困難である.Vojta法が我が国に紹介されて以来,脳性麻痺の超早期発見が叫ばれている.確かに6か月未満の超早期に脳性麻痺を発見しようとする考え方は正しく,検診対象も6か月未満の乳児に目が向けられてきたことはVojtaの功績であろう.しかしながら,この掛け声に見合うだけの検査技術は進歩したのであろうか.
Vojta法は決して脳性麻痺を発見するものではなく,脳性麻痺危険児(ZKS)の発見法である.この脳性麻痺危険児にはhypotonyや精神発達遅滞も含まれてくる.したがって,脳性麻痺の発見という観点から見ると,かなりover diagnosisをしているのである.少し経験を積んだ医師であれば,Vojtaの7つの反射やBobathの神経発達検査法を用いなくとも,重度の場合はもちろんのこと,危険児ということであれば注意深く乳児の動きを観察するだけでも十分に診断はつくのである.さらにover diagnosisの程度が問題である.10倍,いや時には数10倍のover diagnosisをしなければ,本当の脳性麻痺を見落とすのである.数10分の1の脳性麻痺児を発見するのに,放置しても正常となる他の大部分の“無実”の子供たちに“訓練”を行い,その両親に多大な不安と経済的負担を強いるのである.このような状態で,果たして『早期発見』と呼べるのであろうか.
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