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はじめに
脳性麻痺の早期診断と訓練がわが国に本格的に導入されてより,早いものでもう10年がたつ.ボバース夫妻が来日してボバース法の講習会を開いたのは昭和48年であったし,ボイタ博士がセラピストと共に訪れ,ボイタ法の診断法と訓練法を伝えたのは昭和50年であった.
この約10年の間に日本の早期対策の状況は一変したといってよいだろう.当初は,乳児期からの診断と訓練が今日のように全国的に普及していくとは,夢にも思えなかった.1960年代からヨーロッパにおいては,早期訓練が普及してきており日本にも紹介されてはいたが,ほとんど取り組まれないままになっていたからである.それがこのように普及しえたのは,何といってもボイタ法が紹介されたためであろう.乳児期初期から訓練を開始すれば,重度の合併症がなければほとんど総ての児について正常化を期待しうる,という彼の発表は画期的な事であり,これを期に多くの小児科医や保健婦の関心を呼び,行政関係も力を入れだした.
今では早期診断と早期訓練はほぼ常識となっているし,地域差はあるものの,全国ほとんどの都府県で早期訓練が可能となっている.もちろんボイタの早期診断は脳性麻痺そのものの診断ではなく,脳性麻痺の危険性を持った児(ZKS児=中枢性協調障害児)の早期スクリーニングであり,早期訓練は主に「7つの姿勢反応」でチェックされたZKS児の訓練なのであるが1),一般的にはこれをもって脳性麻痺の早期診断・訓練とされているので,本稿でもボイタ法を中心にして早期診断・訓練を検討していくことにする.
私はこのボイタ法の普及に努力してきた者であるがこの数年ボイタ法を中心とした早期対策に幾つかの疑問を抱くようになってきた.これからの対策はまさしく訓練から療育への変換であり,そのためにはかなりの発想と対応システムの変更を必要とするように思える.最近何回か機会があるたびにこのことを述べてきたが2),本稿でも問題点を列記し御批判を仰ぐことにしたい.
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