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発育期にある子供の障害の早期発見,早期療育がいわれてから久しくなる.身体の悪い部分,機能障害を早期に短時間で見つけ出す技術は,検査機器の精密化もあり,過剰診断というマイナス面を差し引いたとしても確実に向上しているといえよう.早期療育の方はどうであろうか?早期療育の目的は,たとえ障害をもったとしても,ひとりの子供として,行動の適応性が順調に広がり深まることといえよう.この目的を達成するのに,阻害因子となる機能障害を治癒できれば,いわゆる療育は必要でなくなるが,発達期の子供であっても機能障害は将来も残るという前提で早期療育は進められる.したがって,能力低下を最小限にするには,機能障害のみに注目するのではなく,正常な部分,あるいは発達がより進んでいる部分を十分評価し,その発達を保証,促進することが重要となる.しかし,障害をもった子供は新しい環境に慣れるのに時間がかかるし,体調をくずしていることもしばしばで,家庭で示している最高の行動状態を診察室では捉えられないことの方が多い.障害児の最も良い面を把握するには時間を要するため,医療場面では早期療育といっても最も診察しやすく,かつ子供の最も苦手な部分である機能障害にのみ働きかけることが多くなる.子供が順調に発達するには,いろいろな活動を時間をかけて行う必要があるが,治療・訓練の時間が無制限にあるわけではない.早期療育という意図的に調整された環境下に子供を置いて育てていこうとするからには,その効果についても十分な吟味が必要であろう.
片麻痺を合併した知恵遅れの乳幼児を前にして,いま,何を優先して働きかけるのがよいのかと考えさせられることがある.麻痺を改善しようとすれば,子供の最も苦手な部分に働きかけるわけであり,全体的活動レベルは低いレベルにとどめることになる.一方,知恵遅れの子は,非麻痺側の上肢も操作性は暦年齢に比して遅れている.非麻痺側上肢の操作性を高めた方が,子供の全体的発達レベルを上げるには効果がある.しかし,長期的にみたとき,両手動作が必要なときに最低限補助肢として麻痺側が使えるように準備することも重要であろう.日常生活活動と治療・訓練をどのような順序で組み立てれば,両方がバランスよくいくのだろうか?低筋緊張の知恵遅れの子供では立位保持,歩行開始頃に外反扁平足が明瞭になることが多い.しかし,矯正装具を装着すると,立位,歩行を拒否する子供も多い.これなども,いつ装具をつけるかの判断に慎重さが要求される.移動運動にしても移動運動パターンを重視するのか,移動が可能ということ自体を重視するのかによってアプローチの仕方は異なる.暦年齢や機能の発達段階によっては,いま,何に働きかけるのかの重きの置き方が逆転しうる.これらを間違うと,いかに時間をかけて治療・訓練したとしても廃用症候群,誤用症候群を生ずるだけに終わってしまう.
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