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はじめに
肢体障害により上肢の可動域および手指の巧緻性が低下し,加えて大脳皮質連合野以下の中枢・伝導路・末梢発声器官のいずれかにも障害を有する場合には,書字および発語が困難となり,コミュニケーションが成立しないという状況を呈する.このようなコミュニケーション障害者(以下,障害者と省略)は,大脳皮質連合野で構成した言語情報(文章)を相手に伝達することがほとんど不可能である.そのため,①自らの残存機能を利用して個々の文字を選択または発生させ,②その文字により言語情報(文章)を作成し,③それを相手が認識可能な形態で表現する,ための補助装置すなわちコミュニケーション・エイド(Communication Aid;以下CAと省略)が必要である.
欧米では,1960年代前半から環境制御装置の開発が行われ始め,重度肢体障害者の残存機能の利用による種々の機器の制御という概念が確立された1).そして呼吸気により操作できる電動タイプライタ装置が初期のCAとして開発され,現在に至るまで多くの方式および形態のCAが実用化されている2).しかし,これらのCAは,基本となる言語が異なるため,わが国に輸入して使用されるには至っていない.
一方,わが国では,1970年以前は専用のCAが開発されておらず,仮名タイプライタや文字盤などが補助的に使用されていた.仮名タイプライタの使用では,各種スティックの併用を含め,基本的にはキーボードが操作できる程度に手指機能等が残存していることが条件である.文字盤では,作成中の文章の表示や再現性等に問題がある.また両者は,誤りの訂正や文章作成の効率化にも問題を有している.そのため,このような欠点を除去し,種々のレベルの残存機能を有する障害者に適合した,①・②・③の条件を満たすCAの開発が望まれていた.そして1970年代からの科学技術とりわけ電子工学の飛躍的進歩と,リハビリテーション工学からのアプローチの増加により,CAの研究開発が活発化し,現在では数種類のモデルが市販されるに至っている.
そこで本稿では,肢体障害者用CAの一般的構成と,わが国における開発現況を紹介する.
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