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はじめに
脊髄に損傷をうけると,治療や自然回復の経過を経た後,脊髄麻痺そのものが完全に回復しない限り,患者にはさまざまの程度の膀胱機能障害や性機能障害が生涯残るものである.
これらは脊髄損傷(以下脊損と略す)に伴う一次的障害であって,元の正常な機能に戻すことは通常不可能である.膀胱の一次的障害といわれるものには,尿意の欠如,排尿困難,尿失禁などがあり,これらの要素がさまざまの程度でからみ合っている.
排尿障害と尿失禁は究極的には,膀胱利尿筋と尿道括約筋群とが合目的的に作動しないいわゆる利尿筋・括約筋協調不全detrusor sphincter dyssynergiaに帰することが出来るが,この病態に対処する治療や処置,訓練などの基本的指針はある程度明らかにされている.
これらの基本的指針に従って,脊損者の急性期,回得期,慢性期の尿路管理を忠実に行っていれば,患者は一次的障害を持ち続けながらも,比較的健康に,かつ健康人とさして異ならない社会生活を維持することが出来る.
しかし,現実には入院中はほぼ理想的尿路管理を行った患者でも,退院後の追跡管理を怠ると,意外に重症な二次的合併症を起す例にしばしば遭遇するので,脊損者にとって生涯にわたっての定期的尿路検査は絶対に必要なことであるとわれわれは考えている.
ましてや,入院期間中の尿路管理や治療がずさんであったり,二次的合併症を見落している様な医療であると,患者は予期せぬ不利益のため社会復帰が遅れるばかりでなく,退院後も長期間あるいは生涯合併症のために苦悩を負わされたり,短命に終る結果となる.
このような意味から,脊損者を治療する者は,膀胱の一次的機能障害に対する適切な対応に努めると共に,尿路の二次的合併症の発生に細心の注意を払い,早期発見,早期治療に心がけぬばならないのである.
本稿ではこのような,医療のミスともいえるような,脊損者尿路の重大な二次的合併症について概説する.
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