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はじめに
脊髄に障害をうけると,四肢の身体機能障害はもちろん排尿機能,排便機能そして性機能など内臓機能にも重大な影響をうけることは周知のことである.障害された排尿,排便機能をコントロールできなければ,社会復帰を阻害する直接的な因子になるばかりでなく,生命の予後を左右することにもなる.このためこれらの生理的機能の研究や障害をうけた機能に対する対処の仕方などの研究は比較的以前から行われて,それなりに進歩しており,成果も上がっている.
しかし性機能については,直接生命への影響が少ないばかりでなく,社会復帰を阻害する直接的な因子にもならないであろうと思われていたり,また性に対するわが国での習慣などから余り研究もされていない.しかも脊損者自身のあきらめの気持や,障害者になってまで性のことなんか考えるべきでないのではないかという考え方,さらにどうせ障害されてしまい忘れようとしていた性のことを口にしてかえって落ち込んでしまうのではないか,あるいは決定的な宣言をうけるのが恐いなどといったことなどからも,さらに脊損者にタッチする医療従事者も自分達の知識の不足もあり,ことさら深くかかわりあうこともなく経過してきたのが現状である.
ところが最近では,住宅の問題,仕事の問題,収入の問題など脊損者をとりまく社会環境が改善されてきたことともに,泌尿器科,整形外科などリハビリテーション医学の進歩で脊髄損傷受傷後,急性期から合併症なく経過して,早期に退院して社会復帰して再び一般人と生活するものが増加している.こういった者のなかからは性についての真面目で真剣な質問が増加し,脊損者をとりまく医療従事者も無関心をよそおっていることはゆるされなくなっている.しかしわが国では,脊損者に対するsexual counsellingbばかりか,一般の人に対するsexual counsellingについても特殊な施設を除くと一般に広く普及しているとはいい難く,問題が起きた場合などに個個に対処しているのが現状で,医療従事者も実際の現場で困惑しているものと思われる.
今回は,脊髄障害と性ということで,障害者側の問題,医療従事者側の問題について述べ,最後に障害された性機能に対する現在の治療の可能性について述べる.
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