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Ⅰ.はじめに
今日では,脊髄損傷(以下脊損と略す)に罹患すると,麻痺領域の体性神経とその支配下の横紋筋群のみならず,自律神経系とその支配下の平滑筋群にもさまざまな障害が生ずることはよく知られている.これらの複雑な症候群の中で問題を尿路に限局すると,自律神経支配度の濃厚な上部尿路(腎・尿管)は脊髄麻痺による一次的影響が少ないのに較べて,自律神経と体性神経との微妙な協調関係の強い下部尿路(膀胱・尿道)は極めて強い一次的影響(機能不全)に陥入るのが特微である1,5,11).この特徴を良く理解した上で,機能不全に陥入った下部尿路を理想的に管理するならば,当然のことながら上部尿路も生涯健康に経過することが出来,患者の将来は必ずしも暗黒なものではない.
しかしながら現実には,この下部尿路機能不全の重要さが良く理解されておらず,安易な,時には甚だ不合理な尿路管理が行われているため,重症な下部尿路合併症が放置されていたり,上部尿路の荒廃にまで至って,患者の生命をも危うくしている様な症例にしばしば遭遇する.
一般に,脊損に合併する神経因性膀胱は,診断,治療共に大変むずかしく思われており,一般泌尿器科の専門医にすら敬遠されがちな面があり,当然行われて良いと思われる程度の医療管理も実施されていない傾向があるのは何に原因するのであろうか.
それに対する解答の一つとして,われわれは,「この道の専門家達が,排尿生理の複雑さと,行われるべき処理の限界とを混同しているのではないか」という点を挙げたい.つまり,純学問的に言うと,排尿生理の問題は追求すればする程,微細にわたり複雑怪奇であって止まるところを知らず,この方面の学術論文を読めば読むほどに頭脳は混乱する.しかし,現在知られている事実を要約し,排尿の主なメカニズムを理解して,現実の患者に対処するならば,治療内容は意外に単純で,それ程複雑ではないのである6,8).このことは診断の面でも言い得ることであって,微細にわたる診断法は近年枚挙にいとまがなく,それはそれなりの意義はあるのであろうが,一般臨床家がそれらの技術を駆使することは不可能に近く,概略の臨床像を把握するには結構,簡便法でも事足りるのである.本稿では,現在知られている尿路の診断法を可成り細かいものまで一応罹列はするが,臨床上,最少限にして十分な診断法は何かということに重点を置き私見をのべてみたい.
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