Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
脊損者に対する尿路管理が進歩して,ある程度の基本的指針が確立した今日でも,頸損者について,すべての症例に共通する単一な方法では処理できない幾つかの問題点がある.
一般に脊損者の尿路管理は,①尿路を無菌的に保つこと,②膀胱に多くの残尿を残さないこと,③なるべく早期にカテーテルフリーにし,膀胱への機械的損傷を避けること,④腎機能を正常に保つこと,などが基本原則であり,頸損者であってもその原則に変りはない.通常この原則を遂行するため,脊損初期には無菌間歇導尿法または,無菌的持続留置カテーテル法が賞用され,早期に膀胱訓練を開始し,胸・腰髄損傷者では3ヵ月以内に,頸損者でも6ヵ月以内にカテーテルフリーにするのが埋想的である.
しかし,頸損者の場合,特に急性期には呼吸管理を始めとして,死活にかかわる多くの問題があるため,とかく尿路管理が軽視されがちで,経尿道的に太いバルーンカテーテルを何年も留置して顧みないという無神経な医療を受けている患者に遭遇することがある.このような,長期にわたる経尿道的留置カテーテルの有害なことは,単に尿路に感染を定着させて,尿路結石や上部尿路の荒廃を招くだけでなく,尿道憩室,尿道皮膚瘻,前立腺炎,副睾丸炎を形成したり,特に頸損膀胱には痙性萎縮膀胱に移行し易いという特性もあって,治療困難な合併症を残すことが多いのである.
一般的にいうと,頸損者の膀胱は,下半身の諸筋群が痙性になるのと平行して,膀胱利尿筋も痙性,反射性になる傾向があり,この痙性をうまく膀胱訓練に利用すると,比較的早期に反射性自動膀胱が完成し,排尿に余りカを要しない者が多い.また,尿管,腎孟,腎杯の自動運動(蠕動運動)も良く保存されると,全体の尿の流れは円滑になって,下位損傷者よりも良好な尿路を生涯持ち続ける症例も少なくないのである.
しかし,頸損の特性としての筋の痙性増強の中でしばしば治療上の問題点となることは,後部尿道諸筋の緊張がこれまた痙性となって膀胱尿の排出を阻害することである.このことを十分理解した上で,早期に対応する心構えが大切である2).
以下,頸損に伴う尿路管理上の問題点を,いくつか挙げ,現在の治療指針について触れたいと思う.
Copyright © 1979, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.