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はじめに
発達障害という術語が医学・医療のなかで市民権を得たのは,それほど昔の話ではない.WHOの国際疾病分類では,現在の第10版1)(ICD-10)になってはじめて,「心理学的発達の障害」(Disorders of psychological development)という診断カテゴリーが設けられた.この診断カテゴリーには,言語,読み,書き,計算,運動など,それぞれの領域における発達障害と,小児自閉症を中心とする広汎性発達障害とが置かれている.ICDでは別に独立したカテゴリーとされている精神遅滞も,臨床的には発達障害として扱われることが多い.
かつて脳器質障害2)や精神病3)をモデルにして概念化されたこどもにおける一群の疾患を,発達という平面で再整理し,分類することが可能になった背景には,「発達」を科学する学問―発達心理学,発達神経学など―がもたらした幾多の功績がある.これによって医学・医療は「発達」の障害についても,その輪郭を描くことに成功したのである.
発達障害は,しばしばこどもにおける疾患や障害として問題の所在が指摘され,研究されてきた経緯がある.そのため,教科書でも発達障害は小児疾患の範疇で扱われることが多く,また,発達障害はふつう小児や児童を冠にした診療科(小児科,児童精神科など)が対象としており,「発達障害=こどもの病気」という暗黙の図式が専門家の間にさえもないわけではない.しかし,発達障害の多くは人の誕生のときから存在して,その人の生涯を通じて能力障害と生活上の制限をもたらすものであるとの基本的認識を,われわれはあらためて確認する必要があろう.発達障害への臨床的介入については,その時期,視点と手段,介入システムなどをめぐって課題が山積している.
このシリーズでは発達障害,とくに精神発達障害の早期療育について,療育への導入,療育の視点の捉え方,療育の組み立て方,を述べることにする.その中でも,従来,早期発見がなかなかできないばかりか,発見したとしても療育指導に困難をきわめると思われてきた自閉症を中心に据えることとした.最近,自閉症については,知的障害を伴わない例―高機能自閉症やアスペルガー症候群4)―が注目を浴びている.発達障害であっても知的な遅れがないならば予後は良いはずであると推し量られてきていたが,現実にはその転帰が必ずしも楽観できるものではないことが知られるようになったためである.このことは,精神発達障害に対して,ともすれば臨床評価も療育指導も知的側面にばかり偏りがちな風潮に対する警鐘という意味で重要である.
発達障害に対する早期介入の方法として早期療育が有用であることが広く知られるようになった.目下,乳幼児健康診査を早期発見の拠点とした早期療育システムが全国各地で建設されつつある5).実際には,早期療育は発達障害をもつこどもたちに対する福祉施策の一環として実施されることが多い.それは社会保障の立場からいえば,すぐれた福祉サービス体系であることには違いない.しかし,「療育」が障害に対して本来もつべき目的を遂げるためには,専門性の保障という点で弱さがあるかもしれない.早期療育が真に効果をあげるためには,医学・医療の専門性がどうしても必要となる.本稿では,医学的リハビリテーションとしての早期療育の意義について論じることにする.
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