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はじめに
遺伝学の分野は,大きく基礎遺伝学と臨床遺伝学とに分けることができる.基礎遺伝学の領域は極めて広く,遺伝生科学,分子遺伝学,遺伝工学など多岐にわかっている.さらに最近受精機構の解明に伴ない,人工授精,体外受精などの領域が俄かに発展をとげ,授精,受精の科学を取扱うには単に医学者のみでなく,生物学者,農学者,遺伝子工学者などの協力が必要となり,また法律学者,倫理学者から宗教家の介入を俟たなければならない事態を生じてきた.この方面の学問の基礎はますます拡大し,人類発生の初期の段階は広域科学の一つの命題として,各部門の協力による総合的アプローチが必要とみられるに至った.
一方,臨床遺伝学については,人類を対象とする臨床科学であるがために,出産児の数は少なく,人道上の見地から実験や交配などは許されず,ことに近来産児数はせいぜい1名か多くとも2名を数えるくらいで,3児を持つことははなはだ稀となった.さらに人類では1世代が数十年にわたるために,極めて長期的の観察が必要となり,遺伝学的研究を著しく困難にしている.そこでこの欠を補うために疫学的な観察も必要となり,遺伝疫学などの分野が生まれた.また双生児の観察も種々の推測を可能にするので必要欠くべからざる方法である.
さいわい,日本では昔から戸籍の登録が極めて正確に行われているので,ここから家系図作成上の貴重な資料を得ることができるが,戸籍簿が必ずしも正確であるとは限らず,戸籍登録以前の貰い子などは戸籍簿の上では実子と記載されていることが多い.先に述べた人工授精などもまた家系図を混乱させる原因であり,最近の性風俗の乱れなどもこのような混乱に拍車をかけている.
しかし,一方では従来不明とされていた病気の本態が次第に明らかとなり,独立した疾患と考えられていたものが他疾患と並んで症候群と考えられるようになって,遺伝学的に整理統合されて来た疾患も多い.後述するムコ多糖類による一連の疾患群などは,従来は1つ1つ人名を附した病名で呼ばれていたが,今ではムコ多糖類代謝に起因する類縁疾患として扱われている(表3).
われわれ臨床家はあくまで臨床像の把握に努め,一代のみでなく家系内にみられる共通性のある症状に着目し,綿密な家系調査を行って,何らかの遺伝性が見出されるか否かに充分の注意を払う必要がある.
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