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はじめに
サリドマイド胎芽病は,妊娠中の母親の服薬によりその子供に発生した奇形症候群であり,医学的にも社会的にも種々の問題を投じた.
第1に薬品の内服と奇形の発生との間の因果関係が明らかにされたという意味では人類にとって最初の,しかも唯一の疾患である.このことは奇形発生の原因究明に有力な手がかりを与えることになった.
第2にわが国では63名からなる原告団が製薬会社と国の責任を追求して訴訟を提起し,原告側も被告側も多数の学者を動員し,国内のみならず海外の学者も証人として証言した.このようなことは裁判史上にも例をみないことである.裁判の詳細は全国サリドマイド訴訟統一原告団及びサリドマイド訴訟弁護団編集による「サリドマイド裁判1)」(全4編)に述べられているので参考にされたい.1974年10月,被告側は,サリドマイドが原因であることを認め,賠償に応ずるという形で63名の原告との間に和解が成立した.
続いて厚生省内に訴訟に参加しなかった患者に対する認定判定委員会が持たれ,第1次認定判定委長会で190名の患者が認定された(昭和50年10月25日).続いて第2次認定判定委員会で50名の患者が認定された(昭和52年11月17日).これらを合計するとわが国には現在まてに少くとも303名の患者がいることが明らかとなった.
第3に被害児がアメリカを除く世界各国に及んだことである.死産児や夭死児を含めた数の把握のしようはないが,現在生存者については,西独で約3,000名,イキリスで約700名,日本では303名に達しており,その他スェーデン,カナダ,オーストラリヤ等,十数ヵ国に及んでいる.わが国の発生は世界第3位である.1つの薬品による薬害がこのように広域にわたって発生したこともまた人類史上例をみないことである.
第4にこれらの犠牲者は現在大学受験期に入っており,一部は今春大学に進学している.医学的にやるぺきことはすでに大方終了し,今後は経過観察,フォローアップ等を残すのみとなった.
現在の問題としては,教育面ことに進学に伴なう種々の制約の問題が差迫った課題としてクローズアップされており,今後は職業的リハビリテーションへの道を如何にして開拓してゆくかということ,社会参加への過程を如何にして開いてゆくかということ,さらには恋愛,結婚などの問題への対処のし方など種々の困難が予測される.一部には,サリドマイド児の問題は遠い過去の出来ごとのように思われている向きもあるが,現実にはわが国にも少なくとも303名の被害児がおり,現在10代から20代に移行する年齢層に達しているということを改めて認識する必要がある.
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