Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
成人失語症患者に対する言語治療の目標は個々の症例の持つ限界内で,患者の能力をできる限り病前の状態に近づけて行くことである.そこには言語機能の改善はもちろん,社会的適応の改善も含まれている.即ち,失語症患者の行動を言語治療場面の中だけでなく生活そのものの中で変えて行くよう計画する必要がある.言語治療士は,①患者の言語機能そのものの回復を目指す“狭い意味での言語冶療”即ち言語訓練を行うと同時に,②患者の言語機能の障害から派生する様々な問題点に対する対応策(マネージメント)を講じるのである1).患者の周囲の人々に対する指導,患者自身並びに家族に対する障害の受容の援助2~5),補助的コミュニケーション手段の活用,及び患者が自己の存在意義を見出すための援助6)などがマネージメントに含まれる.言語治療過程の流れを発症からの時間経過にそって以下に述ぺる.
1.急性期
失語症患者に対して言語治療を始める時期はいつが適当かについてはいろいろな議論がある7).言語機能そのものの改善を目指す訓練の開始時期に関しては慎重な配慮が必要なことは言うまでもないが,言語治療士が,患者と接触をはじめる時期については特別の制限はないと考えてよい.患者が言語治療士のところに紹介されてくる経路は,病院内では医師を通じてであり,リスク管理は医師が行なうからである.この時期の言語治療士の役割としては,①情報収集(「失語症の評価」参照),②患者及び家族に対する心理的支持,③患者に接する周囲の人々に対して患者のコミュニケーション障害についての正しい知識を行きわたらせ,その時点での患者の能力に見合った最も効果的なコミュニケーションの方法を指導することなど(表1),マネージメントの側面が中心となる.家族などの要請が強くても患者自身に訓練に対するレディネスがない限り,正式の言語訓練は始めるぺきではない.また,専門家によらない言語訓練は,たとえ善意から行われるものにせよ,逆効果となることもあるので注意が必要である8).
2.言語訓練期
全身状態がほぼ安定し,集中力が認められるようになった時点で失語症鑑別診断検査を行い,その結果に基づいて治療目標を設定し,訓練を開始する.訓練の形態としては個人訓練が中心となる.必要に応じて自習,グループ訓練をとり入れる.
3.慢性期
集中的な言語訓練を行っても,一定期間を過ぎると失語症からの回復の速度は緩くなり,ブラトーに達する9).つまり言語機能そのものの障害の回復には限界があるのである.この時点では,機能障害(impairment)から派生する,コミュニケーション能力の障害,即ちdisabilityの軽減に重点をおいたマネージメントが中心となる.
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.