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はじめに
言語障害あるいはコミュニケーション障害に対する関心は,わが国においても最近,医学,福祉,教育などの分野において広まりつつあり,障害者に対する系統的な臨床サービス(言語治療)とそれを支える関係学問分野の確立および専門家養成教育の必要性が叫ばれている.言語障害とは,年齢,性,社会的標準から期待されることばを使ってのコミュニケーション能力に支障をきたしている状態,あるいは発語に際して不快感や付随運動を伴うもの,もしくはその結果社会的不適応に陥っているものをいう.言語障害は,小児より成人まで種々の原因によってひきおこされ,多様な症状を呈するが,便宜上,機能的溝音障害,口蓋裂言語,吃音,麻痺性構音障害,言語発達遅滞,失語症,脳性麻痺言語,聴覚障害,音声障害,構音失行の類型に分けられる.具体的な言語治療はこれらの障害の種類に応じて異なり,したがって治療効果の判定方法もちがってくる.
言語治療の専門家が言語障害者(児)に働きかける活動は次の3つに要約することができよう.第1は,患者の言語能力の回復・改普を目的に直接患者に対してとられるさまざまな処置であり,狭義の言語治療とよばれるものである.第2は,家族や周囲に対する働きかけである.障害に対する適切な認識をもたせ,障害を軽減することに協力してもらい,さらに社会適応について指導することを含んでいる.第3は,直接あるいは間接に言語障害に影響する医学的問題(器質的問題,けいれん発作など)について関連分野と情報を交換したり,しかるべき処置がとられているか配慮すること(関係要因の管理)である.このような働きかけについて各々効果を判定し総合したものが広い意味の「言語治療の効果」といえるものであろう.一般に治療効果の判定には,評価方法,自然治癒に関する情報,関連する諸変数が統制されていること,の3つの条件が必要である.しかしながら,これまで各言語障害について出されている知見からは,現在なお一致した結論には至っていない.このことは,コミュニヶーション活動が複雑な要因とプロセスの上に成立しており,したがって,評価方法,変数のコントロールが必ずしも容易でないこと,また,言語障害の専門領域の歴史が浅いことと無関係ではないと思われる.
したがって,現時点において,言語障害全般における「言語治療の効果」を論ずることは不可能であり,さらに小児と成人を一括することは前者では発達的な要因が大きく影響するため不適切と思われるので,まず,小児の言語障害のリハビリテーションについて著者の経験にふれ,次に成人言語障害のリハビリテーションの中で最も大きい位置をしめる失語症の臨床経過を述べ,あわせて言語治療の効果をめぐる問題について考察を加えたい
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