- 有料閲覧
- 文献概要
最近ようやくわが国でもリハビリテーションの意義が理解されはじめ,社会福祉政策の中で重要な地位を占めようとしている.機能障害者が精神的,肉体的,経済的,社会的に再び幸せをとりもどすことは,いかにむずかしいかという問題は,既に読者の経験済みのことである.これまで資源が乏しく輸入物資の加工による製品を輸出することによらなければ,国の発展に連ならなかったわが国では,国民の勤勉さ,安い労働賃金がその支えとなっていた.このため機能障害者は例え機能の障害度が僅かでも,自立できる報酬がえられる職場を見出すことは困難で,リハビリテーションにたずさわる人々の期待に副えない遺憾な結果に終る場合が少なくなかった.経済の発展と国民生活の豊かさが次第にもたらされるにつれて,社会福祉に対する関心が高まり,リハビリテーションの重要性も“今日は人の身,明日はわが身”として認識されるようになってきた.わが国の国民性には新しく注目された問題に対し,急激に爆発的に興味を集中し,ブームを作るが,やがて正当な評価を残さずに忘れ去るという特徴がある.リハビリテーションについても同様にブームを作り,そして忘れ去られる恐れがある.完全に治りたい,治したいという願望は機能障害者のみでなく,リハビリテーション医療にたずさわる我々の側にもある.しかし機能障害者の側の過大な期待に対する治療者側の処置,そして仕上りの成果には,おのずと限界があるのが実状である.このためしばしば,障害者にも治療を行った者にも,はかない不満と諦めが生じる.障害者は機能修復の限界について,極限か否かを知りたいと思う.これに対して治療者側では,臨床経験を通じた予側はできるが,学問的根拠がなく,障害者の疑問に十分答えることができない.その結果,障害者は治療に対する不信をもち,治療者は施行した訓練量,努力,熱意に対しては満足しても,現在の訓練方法や訓練技術に疑問をもつ.あるいは機能修復の困難さに絶望する.このような不信と不満が障害者側にも治療者側にもおこれば,リハビリテーションの医学面の前途は次第に暗くなり,その評価は低く限定されるようになるであろう.また現状のままを自認するならば,リハビリテーションの医学面に関係する人々は,自らが自らの医療行動範囲を限定し,狭い世界にとじこもることになる.願望と期待そして現実の結果の間に,隔差が少なければ少ない程,その活動する世界は狭い.逆に隔差が大きければ大きい程,活動範囲は大きい筈である.我々はいま一体何を考え,いかなる点を開拓しなければならないのであろうか.機能修復の限界を安易に考え過ぎてはいないだろうか.障害者の願望と期待に対して,現実を明示するあまり,今後の機能修復の不安,さらに生活不安をもたらし,リハビリテーションに対する意欲を,阻害する方向へ導いてはいないだろうか.機能修復の開発はどのように行うべきであろうか.種々な反省と将来の展望が生じてくる.
機能障害の改善をいかに開発するかは,リハビリテーション医学にたずさわる我々に課せられた義務であり責任である.機能修復はいかにして行われるか,その学問体系は何か,そして適正な方法は何かを真剣に考え,今こそ研究を進めるべき時期であると思う.これまでの医学は基礎医学や臨床医学を通じて,障害の発生はどのようにして起るか,その予防や治療はそれぞれの原因を通じて処置すべきことを述べてきた.しかし,後遺症となった機能障害については,その修復の機序や修復させるべき方法には,ほとんど触れていない.多少とも触れた数多くの文献は,症候学的な記載と仮説によって組立てられているといっても過言ではない.そこで器質的障害とこれに伴う機能障害の機能修復は,新たな学問として取上げ,学問体系を作るため,基礎ならびに臨床医学の協力をえて,研究を進める必要がある.このためには
①疾患別の機能障害の整理および系統別分類
②これらと治療医学との関連性の検討
③これまでの機能障害の改善に対する説の検討.臨床データよりみた問題点の医学的分析.多変量解析による実態の把握
④系統別の機能障害におけるそれぞれの修復機序の追求
(イ)臨床医学面における研究
(ロ)基礎医学面における研究
(ハ)機械工学,電子工学その他自然科学よりの研究
⑤生活適応,社会適応に対する精神・心理面の研究
などが考えられる.そしてこれを推進するに当っては,リハビリテーション医学に関係する医師,看護婦,PT,OT,ST,MSWなどに,それぞれの専門分野の人々が参加する必要がある.そしてチームを組織し,互に協力しつつ堅実な歩みを続けることが大切である.政府としてもこのような機能修復学の確立に対して,長期の視野に立ち十分な援助と指導が必要であると思う.とくに将来のこの学問の発展に対して,系統別機能障害の各々にプロジェクト・チームが組織され,各々の組織が一体となって活動し,成果をあげる日がくることを期待して止まない
Copyright © 1974, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.