Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
東山魁夷の『風景開眼』―極限状態における創造性
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.928
発行日 2012年6月10日
Published Date 2012/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552102569
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東山魁夷の『風景開眼』(『風景との巡り合い』新潮社)には,彼の創作上の転機となった戦争中の体験が語られている.
このエッセイのなかで魁夷はまず,生来の性格の上に,多くの挫折と苦悩を経てきたために,自分の生き方はあまり威勢の良いほうではないとして,彼の生き方を規定したさまざまな要因を挙げている.彼は,「幼い時から青年期まで病気がちであった」し,「物心のつく頃から,両親の愛憎の姿を,人間の宿命とも,業とも見てきた」.その他,「外面にあらわそうとしない私の心の深淵」や「精神の形成される時期のはげしい動揺」,さらには「兄弟の若い死」や「父の家業の倒産」,「芸術の上での長い苦しい模索」,「戦争の悲惨」等々.しかし魁夷は,「私の場合は,こんなふうだったから生の輝きというものを,私なりにつかむことが出来たのかもしれない」として,こうした苦悩の果てに輝く生命の姿を目の当たりにした,次のような体験を語るのである.
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