Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
東山魁夷の『風景巡礼』―病いと創造性
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.480
発行日 2004年5月10日
Published Date 2004/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100586
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東山魁夷は現代日本を代表する風景画家であるが,昭和54年に発表された『風景巡礼』(『風景との巡り合い』新潮社)には,「自然と私との間には,親しさというより,もっと切実なものがあった」として,彼の創造性と病いの関連を示唆する一節がある.
このエッセイのなかで魁夷は,「私は生れつき健康でなかった上に,幼い時から人間の業とも言うべきものの姿を見ていたのである.いや,それよりも,私自身の本質の中に,根深い病いの素因があったのかも知れない」と,自分が幼い頃から心身ともに病めるものを抱えた存在だったと語る.しかも,こうした「心の不安定な状態」は,少年期になると一層亢進してきた.とうとう,中学3年の1学期には休学して療養しなければならない状態になり,魁夷は淡路島の志筑という町の外れにある一軒家で二か月あまりを暮らすことになる.海岸が近く,夜になると波の音が聴えてくるこの家では,魁夷の家に長年いたねえやの母親が独り暮らしをしていたのである.
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