Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
『罪と罰』のラスコーリニコフ―自己特別視からの脱却
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.196
発行日 2011年2月10日
Published Date 2011/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101984
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1866年に発表されたドストエフスキーの『罪と罰』(米川正夫訳,河出書房新社)は,主人公の青年ラスコーリニコフが,金貸しの老婆を殺害するという話だが,この犯罪には主人公の自己特別視という問題が含まれている.
ラスコーリニコフが自首する直前,恋人のソーニャに打ち明けた話によれば,彼は「自分も皆と同じようなし(・)ら(・)み(・)か,それとも人間か」を確かめるために人を殺したのだという.ラスコーリニコフは,「ぼくが殺人を犯したときに,必要だったのは金じゃない」として,「おれはふるえおののく一介の虫けらか,それとも権(・)利(・)を持つものか」を知るために人を殺したのだと語る.人類を二分して,法を犯す権利をもつ少数のエリートと,それに従う大多数の群衆とに分けて考えていたラスコーリニコフは,自分がエリートであることを証明するために,人を殺したと主張するのである.
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