連載 続・白衣のポケット・11
一言の罪
志水 夕里
pp.906
発行日 2001年11月10日
Published Date 2001/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901337
- 有料閲覧
- 文献概要
ギランバレー症候群の男性が運ばれてきた。この疾患は,運動神経(時には自律神経も)を優位に髄鞘を破壊してしまうので,神経から筋肉への興奮が伝達できず,意識はあるのにまったく身体が動かなくなる。ウイルス感染がきっかけになったりもするが,原因は特定できていない。めずらしい疾患なので,説明されても,本人も家族もなかなか理解が難しいが,病状は深刻である。なんせ,だんだんに,自分の身体が麻痺していくのだ。重症の場合,呼吸筋も動かなくなるので人工呼吸器は必須。消化管も動かなければIVHしかない。動かせないのに知覚は残り,意識は清明。残酷な疾患だと思う。彼は,かなり進行が早く,重症だった。わずかに動くのは眼球と足の指先のみ。QOLを上げるのは,まさに看護の役どころ。どうやって,「YES」「NO」のサインを読み取るか,彼の意思や気持ちを導き出すか,彼の隣でみんな必死になった。
サインは,ナースが押しつけるものではない。その人が使い分けている微細な動作を汲み取って,一緒に決めていく。彼は眼球の縦運動がYES,横運動がNOであった。しかし,それだけでは不十分で,五十音を段と行で読み上げ,YESの合図があった文字を拾って,言いたいことを把握した。と言っても,きっと,言いたいことのほんの何万分の一だったと思うけれど。ナースコールは,いろいろ工夫したが,わずかな動きでは鳴らなくて,心拍のモニターアラームを目安にして訪室した。
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.