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はじめに
言語機能は人間のみに備わった生得的な能力である.また,記憶,知覚,意識など,さまざまな認知機能と密接に関係している1).実際,社会・文化活動を含めて,人間の知的な営みに言語が関与しないものはきわめて少ない.
人間の言語処理過程はいくつかの言語要素からなる.単語レベルの言語要素として音韻や語彙的意味処理があり,文および会話レベルの言語要素として統語処理と文理解がある.これらの言語要素の相互作用により,人間は言語処理を行っている.言語機能の脳内機構を考える際,言語要素の処理がそれぞれ異なる特定の脳領域で行われているかどうか,すなわち,複数の言語野が存在するかどうかが重要な問題となる.
脳内の主要な言語野は,19世紀にはすでに発見されていた.言語を話す機能をもつ運動性言語野はBrocaらにより左下前頭回後部に位置することが示され,言語を聞いて理解する機能をもつ感覚性言語野はWernickeらにより左側頭回後方に位置することが報告されている.Geschwindは,前述の2つの脳領域と両野を結ぶ弓状束という線維束の連合作用によって言語機能が営まれる,という理論を展開した.近年の認知神経科学の進歩により,これらの言語野の詳細な機能,さらには他の脳領域の言語処理への関与が報告されている.
脳梗塞,頭部外傷,脳腫瘍などの脳損傷により言語野に病変をきたすと,言語機能の障害,すなわち,失語症が生じる.失語症とは,脳損傷によって一旦獲得した言語機能が障害された状態であり,構音器官の麻痺などによって生じる構音障害とは異なる.失語症の診断には,音韻・語彙的意味処理,統語処理,文理解などの各言語要素の処理能力を詳細に検討することが重要である.そのためには,言語処理の脳内機構を正確に理解することが必要である.そこで本稿では,最初に言語処理の脳内機構を,続いて近年報告された知見をもとに失語症の機能回復の脳内機構を概観する.
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