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この国に高次脳機能障害のリハビリテーションを制度として定着させるという試みに参加して,まる9年になろうとしている.国会からかかってきた一本の電話が始まりで,その場で高次脳機能障害に対策を講じることが決まったとは言え,最初から結論があったわけではない.いくつかの議論の後に,宮澤蔵相と坂口厚相による2001年度予算大臣復活折衝でモデル事業の開始が決まったのが2000年12月のことである.かかる事業は概ね研究事業の開始から,モデル事業を経て一般事業化されることが通例であるが,喫緊の課題として研究とモデル事業が並走するという異例の展開になった.これに先立ち,国立身体障害者リハビリテーションセンターで総長指揮下の勉強会をもち,慎重に法令をさらい,そのうえで何をなすべきか,何が可能か,いかに実行するか,腹を括るのにそれなりの時間がかかった.その一方で,学ぶべき海外事例の代表としてスウェーデンを選び,短時日のうちに必要な情報を入手した.
かくして2001年度から高次脳機能障害支援モデル事業を開始した.時あたかもWHO(世界保健機関)総会がICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)を採択し,障害者の活動,参加,環境との係わりに光を当てた.すなわち伝統的な疾病治療の視点に立った障害発生防止,後遺症緩和に加えて,人間と環境の相互作用を意識した介入による障害者の社会参加を強調した.この考え方に基づき,高次脳機能障害者がもつ障害特性に応じた支援目標の設定とその目標に向けた医療から福祉への一連のサービス提供の構築を目論み,「連続したケア」と呼んで事業の旗印に掲げた.さらに2004年には障害者基本法が大きな改正を迎え,その第1条で障害者の自立と社会参加を強く謳い上げ,WHOの方針と歩調を合わせた.
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