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はじめに
高次脳機能障害という言葉は,もともとは学術的に,責任病巣が明確な大脳皮質の局所巣症状としての失語,失行,失認,半側空間無視などを指す語であった.しかしながら近年,脳外傷やくも膜下出血などの重篤な中枢神経系疾患に対する救命救急医療の進歩に伴い,幸いに救命されたものの,記憶障害,注意障害,遂行機能障害,行動障害などといった神経心理症状を呈しながら,余命を暮らすものが増えてきた.これらの症状は,広範な前頭葉障害を原因として生ずるものと理解されており,近年ではこれらの症状に対する注目の高まりから,単に「高次脳機能障害」という時には,失語,失行などよりも,むしろこれらの神経心理症状を指すことが多くなっている1-3).
これら神経心理症状は,「見えない障害」などとも称され,臨床的に診察室ではとらえにくいものであり,実際の生活や社会参加に至った状況で初めて問題が顕在化されることが少なくない.そして,外見上は回復しており平常に見えるものの,社会生活への適応が障害されており,結果的に職場や学校に戻ることができない症例が多く見受けられるようになっている.
近年報告された脳外傷後遺症実態調査4)によると,脳外傷患者においては,食事,整容,排泄,歩行などといった日常生活動作(ADL)に関しては,およそ50%前後の患者では完全に自立してそれらのADLを遂行しており,介助を要さない状態となっていた.しかしながら,理解,問題解決,記憶などについては,ADLが自立している状態にもかかわらず監視・監督を必要とする割合が高くなっており,社会的交流,就労能力をみると完全自立はそれぞれ16.5%,9.8%に過ぎなかった.すなわち,高次脳機能障害とは,「病室を出て」,「病院を出て」初めて明らかになる障害と考えることができる.
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