Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
イグナチオ・デ・ロヨラの『ある巡礼者の物語』―人間的な成長をもたらすものとしての病
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.940
発行日 2007年9月10日
Published Date 2007/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101046
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イエズス会の創立者の一人であるイグナチオ・デ・ロヨラ(1491~1556)の自叙伝『ある巡礼者の物語』(門脇佳吉訳,岩波書店)には,ロヨラの宗教的な回心に病が大きな役割を果たしたことをうかがわせる記述がある.
ロヨラの自叙伝によれば,20代半ばまでのロヨラはこの世の虚栄を追求し,名誉を獲得しようという欲望に駆られて武芸に励んでいた.バスク地方にあるロヨラ城の城主の末子として生まれたロヨラは本来,宗教的な敬虔などとは縁遠い武人だったのである.1521年,ロヨラがパンプローナの城塞でフランス軍を迎え撃ち,激しい防衛戦をしていた時のことである.一発の砲弾が彼の脚に命中し,片脚全体が砕かれるとともに,もう一方の脚も重傷を負った.ロヨラが倒れて間もなく城塞は降伏したが,城を占領したフランス軍はロヨラを丁重に扱い,担架に乗せて彼の故郷へ送りとどけた.
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