講座 失行 失認シリーズ
失行症・失認症をどう理解するか(2)
上田 敏
1
1東大病院リハビリテーション部
pp.119-124
発行日 1972年4月9日
Published Date 1972/4/9
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518104204
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Ⅲ.高次脳機能の研究の歴史
<A.臨床医学的研究>
1.前史(Broca以前)
人間の精神―こころの座が体の中のどこにあるのか,またどうして物質である体がこころという‘非物質的’なものを荷うことができるのかという問題は古くから哲学者や科学者の心をとらえてきた.この問題をめぐって唯物論と観念論との2つの哲学流派の流れが相争ってきたし,それが哲学史のひとつの重要な縦糸であったともいえる.
ヒポクステス(BC460-375)は‘神聖病について’の中で‘人間にあっては脳が最大の機能をもつ__脳が意識の伝達者である’1)と精神の座を脳に求め,‘流行病’の中で頭部外傷について‘外傷が右側にあると左側が,左側にあると右側がまひした’2)と運動機能が反対側の脳半球に宿っていることを観察していた.この点で彼は心臓に精神の座を求めたアリストテレス(前4世紀)とは対立していた.もっとも精神の座を脳に求めたのはピタゴラス派のアルクマイオン(前5世紀前半)に,心臓に求めたのはエンペドクレス(前5世紀)にはじまるともいう3).
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