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Ⅰ.初めに
車いすに乗っている身体障害者は脊髄損傷者(以下,脊損者と言う.)に限らないが,長年にわたって車いす使用者の代表が脊損者であった.そして,彼らの職域は未だに非常に狭いというのが日常業務での実感である.それでも,10年単位で長期的に考えると,格段の拡がりをみせてきているのも事実である.
我が国における身体障害者のリハビリテーションの発展において,1964年のパラリンピックと1965年の汎太平洋リハビリテーション会議との開催が大きな契機となっている.このパラリンピックでは,西欧からの選手が職業をもった人たちであり,会場となった織田フィールドへの坂道を車いすに乗って平気で登ってしまうことに我が国の関係者は非常に驚かされた.また,リハビリテーション会議では,我が国の脊損者が医療機関にとどまっていることが多く自宅で生活することさえ少ないこと,まして職業に従事している者は非常に少ないことが報告されており1),脊損者の社会復帰を援助するための特別な施設の必要性が訴えられるなど,何とかしなければという関係者の気持ちが表されている.
その後,福祉工場や重度障害者多数雇用事業所など,脊損者の雇用も意識した事業所が設置されるなど,障害者の雇用促進に関する制度面の充実がなされてきており,現在では職業をもって自活する脊損者は「ごく少数」ではない状態になっている.
厚生省の実態調査によれば,現在の我が国の18歳以上の脊損者の数は,1980年より10000人増加して76000人となって肢体不自由者の5.2%を占めており(身体障害者全体の3.2%),18歳未満の者も2700人いると推計されている2).また,脊損者中の頸髄損傷者(以下,頸損者と言う.)の占める割合は年々多くなってきており,25~41%に達すると言われている3).彼らの職業復帰の状況については1984年に赤津が種々の調査結果から復帰率を概括し,頸損者10%,対麻痺者50%で,両者の合計では30%であると報告している4).このように,職業に就く人がごくまれであった20年前と比較すれば著しい拡がりがあったことが数字のうえで示されているが,それでも身体障害者全体の就業率よりも低率であることも指摘されているのである.
脊損者の就業実態については,前出の赤津報告で指摘されているように全国規模での統計資料が無いこと,また,種々の小規模の調査結果では数字が散らばっていることなどのため非常に把握しにくいが,筆者の国立職業リハビリテーションセンター(以下,国立職リハと言う.)などでの経験とその他いくつかの調査結果を参考にして,職業の状況,職業に向けたアプローチでの留意点などについて考察してみることにする.
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