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はじめに
精神科作業療法の治療効果について書くのは,非常に難しいと言える.理由は簡単で,精神科作業療法の論文には評価方法と評価表(Rating Scales)の記述1,2)が散見されるだけであり,書かれている評価内容は患者の行動変化である.評価が標準化されていれば,その変化を効果と置き換えることで,受入られる部分もあるが,精神科作業療法の場合,評価方法も評価表もまだ標準化されていない3).そこで筆者自身の臨床経験と,現在行っている実験等で得た私見を中心に書くことをお許し願いたい.
精神科の治療は,薬物療法,精神療法,作業療法(生活療法とも言われる)の三つの柱があると説明されている.各治療の臨床的効果は,薬物療法は対象試験の結果で判定することが多く,精神療法は症例研究が主である.そして作業原法もまた症例研究が主であり,効果は社会適応能力の向上,改善である.一般的に症例研究の効果判定は,同一条件の患者に,同じ方法を用いて同様な結果を得た時に,初めて効果を認められるのが基本であろうが,精神科作業療法では症例報告はあるが,追試の報告は筆者の知る範囲では殆どない.
砂原4)は以前から作業療法の治療技術の評価・選択について,1)病気や障害の本質,実態についての科学的認識,2)病気や障害の自然史を異論の余地なく変化させたと言いうる経験の集積,3)実験計画に基づいた比較試験,を条件にあげているがまだ現状はこれにも答えていない.
また現状の精神科作業療法は患者,作業療法士,また医師等の他の医療職種で捉えかたに違いがある.その例をエピソードとして紹介すると,ある日作業療法中に,患者が作業療法士に対して「先生,作業療法をやったら病気が治るんですか」と聞くので,「さあ」と答えると,暫くして他の患者に「~さん,作業療法にきて病気,治った」と問い,問われた患者は「いや,病気は良くならん」と答える.そこで作業療法士が「~さん,じゃあどうして作業療法に来てるの」と問うと,患者は暫く黙っていたが「来たくはないんですよね,だけど作業療法の時間になると,来てしまうんですよ.作業は覚えると楽しくなるんですよね」と答えた.作業療法士と二人の患者の会話はそれで終わるが,始めに口をきった患者は精神分裂病で,無為と幻聴が中核をなす20歳の男性,半年でどうにか作業療法には出席するようになるが,まだ病棟での生活は無為の状態が多い.作品は一作目が1/3程できあがったところである.
医師,看護者の評価は,少しずつではあるが動きが見られ,部屋で寝ていることも少なくなったと言い,作業療法士は作業へ幻聴等の干渉が少なくなり作業量も増加していると評価している.後者の患者は3年前はほとんど保護室で生活し,抑鬱状態に無為が重なり,ほとんど布団を被って寝ていた.そこから作業療法を始めたが,症状が悪化して一時作業療法を中止した.一年後に再開,現在は抑鬱状態は一年に数回で期間も短く,保護室にはいることもない.病棟での評価は無為が減少し,うつ状態も減少していると見ている.作業療法士は作業も確実に難しくなっており,作業においては進歩していると評価している.
この患者二人と作業療法士の会話は,各自の立場に依って治療に対する思い入れに,違いのあることを如実に示している.まず患者は自分の病気というが,患者が言う病気とは退院できないことで,医学的な病気ではない.
医師等は症状を評価の対象にしている.作業療法士は作業での反応を評価の対象にしている.こういった病気に対する,視点のずれは精神科特有のものである.そこで作業療法の治療について考える.
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